■ 入山規制緩和は共生への第一歩 ■

 十一月七日、「岩手山の火山活動に関する検討会」の活動の現状評価、ついで「岩手山火山災害対策検討委員会」による安全対策の基本方針の検討を経て、県と周辺六市町村は、来年七月一日からの入山規制の「一部」「一時」「緩和」を目指した具体的対策に取り組むことを決めた。
 黒倉山山頂に立つと、背後の大地獄谷および黒倉山山頂の噴気は強く立ち上り、姥倉山方面の稜線や南北斜面には何十箇所も白い噴気揺らいでいるのがしばしば遠望される。西側の表面現象はなお上向きである。東側の活動は切迫していないとはいえ、通常年に数回しか発生しない火山性地震が月に百回程度発生していることは、岩手山が決して沈静化していないことを示している。
 研究者の立場で、万一の危険性に重きをおくなら、入山を差し控えるのがベストであることは言うまでもない。しかし、活動が活発化して三年近くになり、観光を始め、周辺社会への影響を考慮せざるをえないことも十分理解できる。その狭間でのギリギリの提案が、1.行政の入山者への緊急警報伝達システムの確立。2.火山活動の現状認識と自己責任の啓発、3.西側での水蒸気爆発による危険区域への対策、を具体化した上で東側四登山道の規制緩和をめざすとのものである。 山頂近くにまで道路やロ−プウエイのある観光火山と異なり、岩手山では下山に時間を要する。東側での活動が切迫してどの程度の時間で噴火が起きるか定かでない以上、入山者への緊急連絡システムの確立は最低の行政責任である。また、沈静化した状況にないことを前提に入山する登山者は、警報の有無を自らの目で確認し、異常時には速やかに下山するという自己責任が求められる。
 どのような状況をもって異常時とみなすべきかの判断もむずかしい。人体に被害が生じたりその恐れがあると予想されるときに出される、「緊急火山情報」の発表後では安全に下山できない場合も起こりえる。そのため、より安全性を考え、「臨時火山情報」の発令に基づき、防災行政無線により警報装置が起動することとした。
 臨時火山情報を発令する盛岡地方気象台、県、市町村など防災関係機関が連帯してそれぞれがなすべき責任を担い、連携して入山者の安全を確保しようとする試みは、火山防災ガイドラインに沿った全国でも数少ない体制である。
 電源もない山間部に設置する緊急警報システムは設計も試作もこれからであり、解決すべき課題も多い。今後、東側での活動がレベルアップした場合には、緩和が延期されることもありうる。しかし、本当に沈静化に向かった場合にも、生きている火山と向き合う上で、今回構築を図るシステムは不可欠なものである。 火山との共生への具体的取り組みのまさに第一歩と評価しつつ、観光業者の方々をはじめ、火山の恵みのなかで生きる私たちは、沈静化への祈りに寄り掛かるのみではなく、減災への取り組みを前進させる努力も忘れてはならない。


岩手日報「論壇」2000年11月16日掲載より

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