3.火山活動と防災対策の経緯
(21)西岩手山の入山規制の緩和に向けて

 西岩手山の大地獄谷から黒倉山、姥倉山にかけては、1999年春以降、東西約1.8km、南北約700mの広い範囲で、噴気や笹枯れなどの表面活動が活発化し、1998年10月18日の第82回火山噴火予知連絡会は「水蒸気爆発につながる可能性」を指摘している。2002年8月現在、確認された噴気孔は200箇所を越えている。黒倉山〜姥倉山の噴気温度も、最高で97°C で低下しておらず、また、姥倉山方面では地温が上昇を続けており、活動が西側になお拡大する傾向を示している。しかし、2002年春以降、黒倉山山頂や黒倉山〜姥倉山南北斜面の噴気量は、全体として頭打ちからやや減少の兆しを示している。

 縄文時代以降、8回以上の水蒸気爆発が確認され、もし水蒸気爆発が発生するとするならば最も可能性が高いとされる大地獄谷の主噴気孔の温度も1998年6月2日に135°C、同7月24日に134°、同9月10日に135.6°と135°程度であった(平林・他、1999)のが、1999年5月12日には143°、2000年9月7日には149°と上昇したが、2001年8月27日には°、2002年9月18日には128°と1998年のレベルに戻っている。また、1999年11月から2002年1月頃まで主噴気孔周辺で広範囲にみられた硫黄の飛散も目立たなくなってきている。

 これらのことから、水蒸気爆発の可能制は従前に比して小さくなっていると考えられる。しかし、加熱沸騰型や減圧沸騰型の水蒸気爆発の可能性は小さいとしても、通常の地熱地域でも発生する噴気孔の閉塞などによる小規模な爆発や水蒸気の突出などの可能性がゼロとは断言できない。至近距離で発生した場合、人身事故が起きる可能性も否定しきれないのであり、将来的にも100%の安全の保障は誰も出来ないであろう。

 2002年7月1日から10月末日まで、七滝登山道は約800m山側まで規制地点を変更した。火山防災マップで想定した御苗代湖の決壊や、山頂部の変動から危惧された黒倉山山頂の崩落の可能制はないと考えられるに至った事によるものである。また、緊急に被害が及ばないとされた松川登山道入り口のキャンプ場も使用が出来ることとした。

 しかし、西岩手山から山頂に至る登山道の規制緩和には安全対策が必要である。地温が高く、登山道上にも噴気孔が点在する黒倉山〜姥倉山一帯の登山道は、木道の設置、登山道以外への立ち入りを禁ずる柵の設置などの安全対策を整備することが不可欠である。また、有毒ガスの噴出している大地獄谷を立入禁止として、七滝コ−スには大地獄谷を迂回してお花畑に至る左保沢コ−スの新設を提唱している。

 2002年10月15日の第93回火山噴火予知連絡会の見解から水蒸気爆発の可能性との文言が削除された。水蒸気爆発が100%起きないとの断言はできるものではなく、火山地帯には、上記に述べたように、小さいながらもリスクが存在することを十分認識してもらうよう啓発を行うとともに、安全対策を実施し、入山の規制緩和を目指すことになるものと考えられる。また、一方で、東側やや深部の低周波地震やモホ面の地震が継続し、新たな活動につながる可能性を捨てきれない状況にあれば、東岩手山と同様の緊急通報システムの整備を西岩手山にも構築する必要が生じる。

 全面的な規制の解除までには、火山活動の推移をを見守りながら、臨機応変な対応を今後も迫られるものと思う。


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