■ 2000年5月25日の西岩手山の表面状況 ■ 

 2000年5月25日に、黒倉山〜姥倉山稜線部に設置している岩手県の地温計のメンテナに、岩手県消防防災課職員2名、設置業者4名名と同行した。
 9時50分、雫石町の岩手高原スキー場駐車場から、岩手県防災ヘリコプター「ひめかみ」で、黒倉山・姥倉山分岐付近の裸地におり、12時までの2時間余、黒倉山山頂までの区域で表面状況の観察と地温測定を実施した。
 機上観測は、月に2〜3回行っているが、斎藤が現地に入っての詳細調査は、昨年8月2日以降の火山ガス観測のため、東北大学浜口博之教授、東京工業大学平林順一教授等が同区域に入山している。また、雫石町の火山特別調査隊が1999年6月以降10回網張温泉から姥倉山、黒倉山まで徒歩で調査を行っており、随時その観測結果について報告・協議が行われている。
 今回の観測結果の概要は以下のとおりである。なお、地温は鉄棒で30〜40mcm穿孔してセンサーを挿入して測定した。

■ 噴気の概況
 全般に噴気の状況は弱めであった。
 姥倉山〜黒倉山稜線部および北斜面、南斜面とも、機上からはほとんど視認できない。分岐点道標脇で、3月28日雫石町小原消防防災係長が踏み抜いて発生した噴気(通称小原1号)は10m以上噴き上がっている黒倉山山頂はランク4〜5、大地獄谷は10数m程度である。

■ 分岐点道標脇の噴気
 3月28日に雫石町小原消防防災係長が踏み抜いたもので、直径50〜60cm、深さ40cm程度の陥没孔で、4月3日、4月15日、4月26日、5月9日の機上観測でも勢いよく噴気している。

■ 黒倉山山頂部
 北東側崖面での噴気が強く、山頂部から10数m下部までの崖面で断裂に沿って噴気している。北東側裸地の崖面近くに群生している這い松の中から弱いものの噴気がでて、一部の這い松が茶褐色に枯れている。この枯れ松は今回が初めて確認された。山頂部および南崖面の噴気は北東部に比して弱いが、崖面の下部からも噴気している。

■ 大地獄谷および西小沢
 黒倉山山頂からの目視では、硫黄の付着が顕著になり黄色がより鮮やかになったように思われる。(5月に下倉スキー場から双眼鏡で観測した岩手大学越谷助教授も同様の報告をしている。)4月15日の機上観測で泥の噴出が認められた大穴付近の状況は判別できなかった。
 西小沢は部分的に雪が残り、笹枯れの全貌は把握できないが、昨年の降雪以前に比して笹枯れの区域は拡大し、黒倉山崖面にかけて樹木の枯れも進んでいるとみられる。1999年7月27日の航空写真では、山頂部直下まで緑鮮やかな植生が認められので、今夏に比較すると変化がより明瞭になるものと思われる。
 西小沢および大地獄谷の合流点付近の笹枯れが黄色く変色し、また西小沢の西斜面の笹も広範囲に黄色味を帯びている。夏期に植生が回復するか注目したい。なお、黒倉山山頂からは西小沢の噴気は確認できなかった。

■ 黒倉山裸地
 黒倉山裸地の北側最下部で1999年10月9日に、報道機関の監視カメラで3箇所から噴気がはじめて観測され、北斜面の噴気帯が黒倉山裸地に連なったことが確認されている。調査日にも同地点の2箇所で弱い噴気が認められ、上部の噴気の温度は94.7度であった。噴気地点周辺は長靴を通しても熱気が感じられ、表面は軟弱となっている。裸地の縁では広範囲に這い松が枯れている。一部は葉が茶褐色に変色して枯れが進行中であるが、大部分は葉が落ちて幹のみとなっている。

■ 黒倉山裸地の西側の円形裸地
 従来から植生がまばらで、冬期に融雪していることから地温が高いと推定されていたが、触っても熱はなく、昨年まで地温の測定などは行われていなかった。2000年3月28日に雫石町特別調査隊が同裸地の一部で94度の高温を観測しているが、同じ地点での95.0度の地温が観測された。噴気は認められない。しかし、10数m離れた地点での地温は、30.0度、15.3度と異なっており、断裂に沿って流体が上昇して高温部を形成しているのではないかと推測される。
 裸地に点在している這い松の多くが茶褐色に葉が枯れているが、葉が落ちて幹のみになっているものは少ない。緑の葉と茶褐色に変色した葉が混在するものもあり、枯れが最近になって進行中であるものと推測される。

■ 黒倉山裸地およびその西側の円形裸地の間の笹地帯
 黒倉山裸地およびその西側の円形裸地の間には広範囲に笹が生えている。昨年はごく一部に変色した笹が点在していた程度であったが、10〜20mといった広い区域で葉が黄色に変色しているのが確認された。ただし、熱気は感じられない。

■ その他
 分岐点から姥倉山方面での調査は時間の制約から今回は行われなかったが、分岐点から西側にも笹枯れが連なって延びている。
 着陸前に、安全確認のため西岩手一帯を周回したが、北斜面のF1断層に沿う噴気付近から100m以上の長さで下部に土砂が崩落しているのが確認された。残雪の上を黒く帯状に染めており、最近崩落が生じたものと推測される。
 また、姥倉山下部の登山道脇の笹枯れ地帯は雪に埋もれたままで、熱気な異常は現われていないものと考えられる。

 黒倉山山頂の噴気温度は昨年10月以降3度程度上昇したが、今年に入って96度程度で推移している。昨年8月2日の測定で93.0度を観測し、北斜面でもっとも活発な活動を続けた黒姥北1号噴気の温度も、今回5月25日同時に入山した雫石町特別調査隊の測定では72度に低下していると報告を受けている。
 また、監視カメラの映像解析や柏台観測点の連続観測から、昨年秋から今年の3月まで右肩上がりで活発化した噴気活動は、その上昇傾向が鈍ったようにも思われる。
 しかし、4月には北斜面下部の樹林地帯や大地獄谷の西小沢で新たな噴気が確認され、また、今回の調査で地温の高い区域が拡大しているのが確かめられたことから、浅部での熱的な活動はなお高いレベルで推移しているものと推定される。
   

文責:斎藤徳美  「第13回 岩手山の火山活動に関する検討会」より