■ 2001年8月観測 西側表面現象についての所見 ■ 

 大地獄谷の主噴気孔周辺には、硫黄が鮮やかな黄色を呈して飛散している。泥を噴出していた大穴は、乾き上がり、周辺に飛散した泥はやや黄色を帯びている。悪天候で観測できない時間が多かったが、噴気ランクは3以下の日が多く、勢い、太さの点からも噴気は従前より弱くなりつつあるように見える。

 黒倉山山頂の噴気ランクも弱めに推移しているが、黒倉山西斜面、円形裸地周辺の枯れは昨年以降も拡大し、高温域は広い範囲に及んでいる。8月7日の現地調査では、黒倉山・姥倉山分岐から姥倉山方向での噴気孔の調査が行なわれ、主として断層F7、F8に沿って、分岐から約100mの範囲に19箇所の噴気孔と数ヶ所の熱湿地が確認された。噴気孔は径・深さとも20〜50cmで、稜線南北斜面のように径1mを越える大きなものはない。噴気温度は70〜85度と低く、F6の分岐より90m以上離れた噴気は青笹の中にあることなどから、比較的新しいもの(昨年秋には雫石町の調査隊が噴気がのぼるのを確認、今年3月の現地調査で斎藤らが多数の融雪孔を確認)も含まれると考えられる。

 同日、稜線部南斜面での噴気孔の調査も行なった。南斜面は98年の地震活動活発化以前から裸地化して、笹枯れが進んでいたため、既存の地熱地域との認識で調査が後手になっていたものである。今回、斜面の中腹に東西に23箇所の噴気孔がと数ヶ所の熱湿地が確認された。噴気孔の多くは、径・深さとも20〜40cmと小規模なものが多い。98年6月の現地調査の際に、青笹の中に噴気のあがるのが数ヶ所で観察されているが、その付近には最大径3m、深さ2m程度の大きな孔が7箇所確認され、これらは長期間の噴気活動で孔が拡大したものと推測される。噴気温度は95度以上のものが多く、稜線から100m程度南側に離れた地点でも95度以上を示す地点がある。なお、今回の調査でも南側斜面の全域は踏査出来ておらず、また、笹に埋もれたり囲まれている噴気孔は遠方からもくしできないことから、この他にも噴気孔は存在するものと推測される。

 8月16日は、黒倉山西側裸地から、黒姥北1号噴気に連なる沢に沿って伸びる変色帯を調査した。黒姥北1号は99年3月に瓢箪型の融雪孔として初めて確認され、北斜面では最も古い(今回の活動において)もので、1号噴気と黒倉山西側裸地との間に99年8月に東西に伸びる笹枯れ帯が現れている。この笹枯れ帯は東西に長さ70m以上にのび、大きな噴気孔はないものの弱い噴気がしみ出ている部分の地温は95度程度と高い。

 黒姥北1号噴気周辺は数十m四方にわたって笹や樹木の枯れが拡大している。噴気の多くは岩塊の間などから広範囲に噴き上がっており、土壌にまで地温計を差し込めないためか、最初に噴気が現れた場所では噴気温度は84度(99年5月12日89度)と稜線部に比して低いが、表層が熱泥の部分では95度を示す場所もある。

 黒姥北1号から沢を下り、東側に青笹をかき分け約30m入ると、99年7月に機上観測で確認された枯木地帯に至る。今回初めて現地に足を踏み入れた。南北方向に100m以上、幅20〜30mにわたって、高さ10m以上の俗称青森とど松(オオシラビソ)群が枯れ死しており、中には倒木もある。笹は青い部分もあり、地温は全体に55度程度であるが、確認された沢沿いの数ヶ所の噴気には94.4度と高いものもある。噴気は、99年9月の機上観測時に確認されており、最近に急激に生じた活動ではないが、枯れ死の範囲が拡大し、また稜線から300m程度?離れていると推定される標高の低い区域でも地温が高いことが確認された。

 8月17日の機上観測では、黒倉山西側裸地の西小沢の下流、さらに東側の沢沿いに枯れ死した樹林地帯が確認されている。従来の笹地帯から、樹林帯の中でも高温の地域が広がっていることは、今回の表面活動を評価する上での注目すべき点の一つと考えられる。

 なお、昨年9月および10月に約80箇所の噴気孔が確認されたF1、F2、F3では、笹枯れがさらに拡大し、全体が連なって大きな変色帯になり、枯れ死した笹は白色化している。

 これらの状況から、目に見える噴気の高さや勢いは頭打ちであるものの、地温の高い範囲は広い範囲に及んでおり、地熱活動はなお高いレベルで推移しているものと考えられる。

文責:斎藤徳美  「第18回 岩手山の火山に関する検討会資料」より


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