■ 2001年3月〜5月観測 岩手山表面現象についての所見 ■

 例年、4月に顕著にあらわれる山頂の融雪痕の鷲型が、積雪が多かったにも係わらず3月23日には明瞭に観察された。2001年1月9日「ひめかみ」、同3月8日「自衛隊機」による山頂の機上観測では、妙高岳の数ヶ所、奥宮付近、火口壁南東部(昨年もしばしば弱い噴気が山麓から観察されている)などで部分的な融雪が観測されたが、これらは従前と同様である。また、5月1日にはほとんど雪が解けたが、噴気などは機上から観測されず、山頂火口付近に大きな変化はないものと推測される。

 岩手山西側に関して、3月22日は降雪直後でなかったため、地温の高い区域で融雪が明瞭に認められた。主な区域は、黒倉山山頂部、黒倉山西斜面裸地、同円形裸地、三角岩周辺稜線部、稜線部南斜面および大地獄谷である。積雪の間に噴気孔などが確認されたのは、黒姥分岐から姥倉山方面F7・8、北斜面F1、同F3(特に表層滑りを生じている部分)、黒倉山西斜面裸地から北西小沢、黒姥北1号噴気付近、大地獄谷西小沢の5群の噴気群などであり、北斜面の樹林地帯の中にも融雪孔が見られた。当日は噴気のランクは全般に低めで、機上から噴気が明瞭に確認されたのは、黒倉山山頂部、黒姥北1号、西小沢1号・2号、三角岩周辺稜線部、大地獄谷などである。大地獄谷の主噴気孔周辺に飛散している硫黄の色が、これまで鮮やかな黄色であったのに対し、薄汚れた淡黄緑色に変色していが、その原因は判然としない。

 3月28日には、黒倉〜姥倉間の県の地震計のメンテナを兼ねて、分岐点に「ひめかみ」で着陸し、約4時間にわたって、斎藤徳美岩大教授、伊藤順一県防災航空隊長、安斎和男県火山対策主事が現地調査を行なった。前夜に降雪があったらしく、着陸時(8時30分すぎ)は、黒倉山西斜面裸地、同円形裸地などは露岩に雪が付着し、全体としてまだら状であったが、昼近くには全域が露出した。稜線部と円形裸地の間の樹林地帯は1m以上の積雪であったが、表層以外は締まっており、膝程度までのラッッセルで踏破できた。円形裸地は南端部で弱い噴気が漂っていた。西斜面裸地と円形裸地との間は雪で覆われているものの深さは数十cm以下で、枯れた笹が露出しており、両裸地間の地温の高い範囲は拡大しているように推測された。

 稜線部は露出しているが、斜面には笹が隠れる程(3m程度か?)の積雪がある。かなり締まった部分もあるが、新雪のついている部分が膝から上までの積雪があるものの、容易に黒姥北1号噴火気、F3噴火気列まで到達することが出来た。黒姥北1号噴気は、出現した99年4月には、雪のなかに開いたひょうたん型の融雪部であったが、沢沿いに拡大し目視では長さ20m以上の広い範囲から噴気が立ち上っている。F1〜3の噴気のように孔状ではなく、破砕された岩片や土塊の間から広範囲に噴気しており、地温計を深く差し込むことが出来ないためか、噴気温度は約86度と稜線部より低い値を示した。

 F3噴気列付近は、全域的に周辺に比して雪が薄い。噴気の強い孔は雪が溶け径1m以上が露出している。噴気の弱い孔は、雪で孔の表面が覆われているが、内部は空洞になっており、時間が経過すると露出するものと推測される。

 黒姥分岐から姥倉山方向へは、F7・8に沿って融雪孔が連なっている。新雪の深い部分では表面が雪に覆われている孔もあり、ラッセル中に噴気孔に落ち胸まで埋まるアクシデントもあった。稜線部南斜面にも数ヶ所融雪孔が確認された。

 4月16日18時頃、盛岡地方気象台の遠望観測で、鬼ヶ城付近から噴気らしいものが立ち上るのか観測され、同時刻のNHK盛岡放送局の監視カメラでも同様の現象が確認された。そのため、翌日の4月17日に急遽、県の防災ヘリ「ひめかみ」による機上観測を行なった。鬼ヶ城の最高部、標高1905、9mの岩場付近から、噴気らしいものが断続的に立ち上っていたが、詳細に観察した結果、背後の斜面から新雪が巻き上げられている現象であると判断された。

 5月1日の機上観測では、黒倉山山頂から西斜面裸地、円形裸地、稜線部、姥倉山山頂および稜線の北斜面、南斜面の地温の高い区域はすべて雪が解けて、枯れた植生または表土が露出している。昨年から、笹枯れや這い松の茶枯れが見え始めた黒倉山西斜面裸地と円形裸地の間は、融雪と共にあらわれた笹はほとんど黄色に変色し、雫石町火山特別調査隊の4月10日の地温測定でも約60度と従来よりも地温が上昇している。大地獄谷西小沢は残雪があるが、噴気群5箇所は広範囲に雪が解け、西小沢1号および2号噴気とも10〜20m程度勢い良く噴気が立ち上っている。大地獄谷の噴気も、主噴気孔、大穴など4箇所程度から、谷の稜線部まで噴気が上がり、強い状態にあった。

 テレビ岩手の監視カメラのビデオ解析による大地獄谷の噴気ランク(1日での最高ランク)は表に示すように、高い状態が継続している。

 以上の調査から、大地獄谷〜黒倉山〜姥倉山一帯での表面活動は、大きな変化はないものの、活発な状況が継続していると考えられる。

「第89回火山噴火予知連絡会」資料より


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