★岩手山入山規制緩和にむけた登山者安全対策の構築
斎藤 徳美 ・ 山本 英和 ・ 佐野 剛 ・ 土井 宣夫
Establishment of some measures for safety
of climers to temporarily relax the reguration for stopping to clime Mt.Iwate
Tokumi SAITO, Hidekazu YAMAMOTO,
Tsuyoshi SANO* and Nobuo DOI
Abstract
The regulation for stopping to climb Mt. Iwate had been carried out since 1998 due to the frequent occurrence of volcanic earthquake. Due to the economic consideration to the region, measures or methods for recognizing to climb Mt. Iwate with the security of the safety of the mountain climbers were examined, while the volcanic activity had continued through three years. By the cooperation of related organizations for preventing disaster, the answers were proposed as followings; To announce appropriate information to mountain climbers from Morioka District Meteorological Observatory, To establish the system which transmits the emergency alert to mountain climbers, To teach climbers climb mountains on their own responsibility. The regulation for stopping to climb mountains were temporarily relaxed from July 1st, 2001 until October 8th for 4 mountain trails in the eastern Mt. Iwate. The challenge to live together with the volcano, where volcanic activity still continued, was started. The correspondence in Mt. Iwate seems to become an effective guideline, which people live together with the volcano, on other active volcanoes.
キーワード:火山災害、入山規制、安全対策、緊急警報
Key words: volcanic disaster,regulation for stopping to climb,measures for safety,emergency alert system
1、緒 言
2、わが国の主な火山での入山規制と安全対策
3、岩手山の火山活動の経緯
4、規制緩和の必要性
5、安全対策の条件
5、1 基本条件
5、2 異常事態との判断基準
5、3 登山者への緊急連絡システムの整備
5、4 登山者の自己責任の啓発
6、入山規制の緩和まだの手順
7、監視員への依頼事項
8、規制緩和以降の課題
9、結 言
謝 辞
参考文献
1、緒 言
岩手山では、火山性地震の頻発や表面現象の活発化に伴い、1998年7月1日以降入山の規制が行なわれた。その後、噴火は発生していないものの、沈静化にも至らない状況で経過した。この間、経済環境の悪化が背景にあるものの、風評被害による観光客の落ち込みなど、地域経済への影響も考慮せざるを得ない状況となった。そのため、噴火の可能性が否定しきれないなかで、火山活動の監視や登山者の安全確保体制の整備をもとに、山頂まで入山規制の緩和を図るという、わが国では例のない「火山との共生」の試みが模索された。
火山活動の監視や検討態勢を整備し、研究者、防災関連機関、報道機関が連携する「減災の正四面体構造」(岡田・宇井、1997)の実践のなかで、規制緩和のために必要かつ実効可能な安全対策の検討が行なわれた。そして、関係機関の連帯責任と連携を背景に、「気象台からの火山情報の適切な発表」、「登山者への緊急連絡システムの整備」、「自己責任の登山者への啓発」を三本柱とする安全対策が構築され、2001年7月1日から10月8日まで岩手山東側登山道での入山規制の一時緩和が実施された。
安全確保のためには、活動が活発化した火山には近づかないことが最善である。しかし、火山が有力な観光や地域振興の源である以上、有効な安全対策を構築し、地域社会と共生する取り組みが求められる。火山活動次第で規制や緩和を繰り返すいわば受け身の姿勢から、監視、評価、対策などの充実を図り、積極的な安全確保の対応に基づき入山を認めるといった岩手山での取り組みは、噴火周期の長い我が国の多くの火山にとって、先駆的な指針となりうると考えられる。
本論文では、岩手山の入山規制の緩和に向けての登山者の安全対策の理念と具体的対策および今後の課題について論じることとする。
Table 1 The regulation for stopping to climb mountains and the measure for the safety of mountain climbers for volcanoes in Japan(March in 2002).
2、わが国の主な火山での入山規制と安全対策
わが国には、継続的に噴火を起こしている火山や、短い周期で活動が活発化する火山が多く存在し、これらの火山では危険地域への入山規制を行なったり、また、一部には登山者への安全対策を行なっているもののもある。入山の規制などは、活動状況を勘案し、随時変更されるが、現在、行なわれている規制措置および安全確保のための設備の概略は、Tab.1 に示すとおりである。
阿蘇山など、火口まで不特定多数の観光客が立ち入るいわば観光火山では、監視所やシェルタ−などの安全施設を設置している。しかし、ほとんどの火山では、活動が活発化した場合に入山を規制することで、安全を確保することとしており、登山者を対象とした本格的な緊急警報システムなどは整備されていない。また、入山規の規制や緩和を行なう場合の火山活動の評価体制も確立してはおらず、多くの場合は当該火山が位置する市町村が独自に行政的見地から措置している場合が多い。そのため、2000年9月の磐梯山の地元町村による入山規制緩和に際しては、地元気象台が懸念を表明するといった困惑した事態も生じている。
噴火周期が長く、現存する行政関係者や住民が当該火山の噴火を経験していないわが国の多くの火山では、火山防災対策も手付かずのところが多く、登山者の安全確保のシステムなど検討されたことすらないのが実情といえる。
そのため、岩手山においても、範となすべき事例がない中で、独自に入山規制の緩和と安全確保の両立を目指した理念と体制の構築を模索することとなった。
3、岩手山の火山活動の経緯
1995年9月に火山性微動の発生で研究者に注目された岩手山では、2年半後の1998年4月29日に285回の火山性地震が発生し臨時火山情報第1号が発表された。同年6月24日には、噴火の可能性の指摘を含む臨時火山情報第2号が出された。そのため、当時、県が設置した「岩手山火山活動対策検討会」の助言をもとに、岩手県と岩手山周辺6市町村(盛岡市、雫石町、滝沢村、玉山村、西根町、松尾村)の首長が協議し、同年7月1日の山開きから岩手山のほぼ全域で入山が禁止されることとなった。
岩手山では、1686年に大規模な山頂噴火が発生し、1732年には焼走り溶岩流が噴出している(土井、2000)。しかし、それ以降大きな噴火を起こしていないことから、具体的な噴火対策は皆無であり、住民および行政機関とも火山に対する関心や知識はほとんど培われていない状況にあった。東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センタ−や気象庁などが監視網の整備を図る一方で、地元の産学官連携組織である岩手ネットワ−クシステム(INS)が強力なリ−ダ−シップを発揮し、「岩手山の火山活動に関する検討会(座長、斎藤徳美)」「岩手山火山災害対策検討委員会(委員長、同)」などの公的な組織の立ち上げを後押した。前者は、現地観測などを行なうと共に、活動の現状を行政に噛み砕いて助言するものであり、後者は、岩手山火山防災マップの作製、岩手山火山防災ガイドラインの策定、さらに総合的防災対策について提言する役割を担うものである。また、ボランティア組織である「INS岩手山火山防災検討会」の会合を毎月岩手大学で開催し、機関の壁を越えた忌憚のない意見交換を行い、ひとのネットワ−クつくりを進めた。なお、これら岩手山防災のための組織の概要は付録に示したとおりである。
岩手山はFig.1に示すように東西約13kmにわたって25以上の火山から構成されており、東経141度線付近を境にして、過去約6千年前以降に活動を開始しマグマ噴火を繰り返す東岩手山と、縄文時代以降は水蒸気爆発しか発生していない古い山体からなる西岩手山に大別されている。そこで、東側でマグマ噴火、西側で水蒸気爆発という二つの噴火形態で想定される被害予測を示した「岩手山火山防災マップ」を緊急に作成した。さらに、我が国で初めて、火山での異常発生時から噴火時さらには復興期までに必要な防災対応の指針を取りまとめた「岩手山火山防災ガイドライン」を策定した。そして、出来るところからの実務的対策を進めると共に、避難訓練、住民説明会、シンポジウムなどの啓蒙活動などを実践的に行なってきた。(斎藤、1999;斎藤、2001a;斎藤・他、2001など)。
火山性地震の回数は1998年8月頃から減少に転じたが、同年9月3日には雫石町長山で震度6弱の地震が発生した。この地震は活断層が動いたもので(越谷・他、1998)、岩手山西側で発生している火山性地震とは異なるものであるが、この地震の発生は住民に衝撃を与えた。2001年以降、月あたりの火山性地震の回数は100回以下で推移している。また、1998年2月頃から顕著であった山体の南北への伸張も、2000年以降はほとんどみられなくなった(東北大学大学院理学研究科、2002)。山頂(薬師火口)での表面現象などは、地震や地殻変動などが顕著になる以前と変化はなく、東側でのマグマ噴火は切迫した状況にはないと考えられている。
一方、西岩手山の大地獄谷、黒倉山、姥倉山一帯では、1999年5月以降、笹枯れや新噴気群の出現といった表面現象が活発化し始めた。東西約2.5km、南北約700mと広範囲で、100箇所をこえる新噴気孔が出現した。黒倉山山頂の噴気はしばしば高さ200mを越えるなど活動は活発なまま推移している(土井・他、2001;土井、2002)。1999年10月18日の火山噴火予知連絡会で水蒸気爆発の可能性が指摘され(第82回火山噴火予知連絡会、岩手山の火山活動に関する統一見解)、2002年2月の同連絡会でもその見解は撤回されていない。
2000年10月に実施された岩手山人工地震探査の弾性波トモグラフィ解析から、岩手山内部の3次元弾性波速度構造が明らかにされた(田中・他、2001)。その結果に基づく火山性地震の震源分布や地殻変動解析から、1998年2月から4月と8月に浅部までマグマが上昇したと推定されている(佐藤・浜口、2001;田中・浜口、2001)。西岩手山における広範囲な表面現象は、マグマの熱で加熱された蒸気、熱水が上昇することによりもたらされているものと考えられる。
岩手山の地震回数(東北大学松川観測点)と黒倉山山頂の噴気の強さ(松尾村柏台土井宅観測点)の変化をFig.2に示す。火山性地震の回数は減少傾向にあり、地殻変動も鈍化していることから1999年以降、新たなマグマの貫入は生じていないものと推測される。しかし、浅部まで通路ができている以上、もし次の貫入があった場合には短時間で噴火に至るとの危惧も否定しきれず、監視・観測体制の継続が必要である。2002年3月現在、大きな地殻変動などは観測されていないものの、2001年11月には3年ぶりにモホ面付近での低周波地震の回数が27回と月に20回を越え、また2002年1月には火山性微動も4回(2001年は年間で3回)観測されるなど(盛岡地方気象台、2001、2002)、活動はなお長期化する様相を呈している。
Figure 1 Location map of Iwate Volcanoes
Figure 2 Number of earthquake occurrence around Mt. Iwate and intensity of fume generated at the summit of Mt. Kurokura(after Doi, 2002).
4、規制緩和の必要性
東側での活動は切迫した状況にはないとはいえ、沈静化の宣言も出されていない火山で、入山規制を緩和する事例は少ない。
岩手山では地震活動や表面現象が活発化して以来、噴火など実災害が発生しないまま3年以上を経過し、地域の経済などに与える影響を危惧する声も大きくなりつつあった。この間、岩手山南側の雫石町にある岩手高原スキ−場は、1998年9月に営業休止を決定、冬季の営業をスキ−客に頼る岩手山南山麓のペンション村は大きな打撃を受けることになった。1998年9月3日の雫石町で震度6弱の地震は、現実に自然災害が発生したとして、社会経済状況の悪化による観光客の減少に追い打ちをかけることになった。2001年2月には北山麓の観光の拠点でもある東八幡平リゾ−ト事業からJR東日本が撤退を表明した。
これら観光事業の撤退は、単に岩手山の火山活動のみに起因するものではない。既存の観光産業の在り方は、社会経済状況の変化を踏まえて根本的に見なおし、打開を図らなければならない。しかし、一方で「生きている火山との共生」への模索もまた避けては通れない課題である。1999年には、岩手山周辺6市町村の首長から入山規制の緩和ができないかとの声があがり始めた。災害対策基本法上から規制を行なっているのは当の首長であるという矛盾もさらけだすこととなったが、監視・防災体制も不備な状態のままでの緩和は困難という認識は、研究者、行政担当者とも一致していた。地域振興と安全確保をどう両立せしめるか、公的な委員会では行ないがたい忌憚のない意見交換が、「INS岩手山火山防災検討会」の交流会などで、2000年春頃から始められ、入山規制の緩和のための具体的対策が模索された。
第3章に述べた活動の現状に鑑みると、火山噴火予知連絡会で水蒸気爆発の可能性が指摘されている岩手山西側での入山規制の緩和は困難である。しかし、噴火が切迫してはいないと考えられている岩手山東側については、観測機器の設置や観測成果の蓄積で、噴火の時期や形態を正確に予測することは困難でも、事前に注意喚起が可能と考えられるようになった。また、岩手山火山防災ガイドラインに沿った防災対策の整備も一定の前進をみた。これらの状況を踏まえて、現状でなしうる限りの安全対策を行い、長期的に岩手山との共生を探る道に第一歩を踏み出すこととなった。
Fig.3に岩手山の登山コ−スを、西岩手山での水蒸気爆発で予測される噴石、降灰区域および後述する緊急警報装置の位置と共に示す。また、Photo.1に薬師岳火口付近の写真を示す。東岩手山には薬師岳山頂をめざす上坊(ウワボウ)コ−ス(入り口上坊神社)、焼走りコ−ス(同国際交流村)、柳沢コ−ス(同馬返し)、御神坂コ−ス(同御神坂駐車場)が、西岩手山には七滝コ−ス(同県民の森)、松川コ−ス(同松川キャンプ場)、網張コ−ス(同網張温泉)がある。網張コ−スは三ツ石山を経て八幡平に至る利便を考慮して犬倉山手前の分岐まで規制の対象とされていないが、その他のコ−スは中間点での規制が難しいことから、すべてコ−ス入り口から入山禁止とされている。今回、入山規制の緩和の対象として挙げられたのは、東岩手山の4コ−スである。
Photo 1 The eastern Mt. Iwate( Summit of Mt. Yakushi-dake; height 2038m ).
Figure 3 Locations of the mountain trails at Mt. Iwate and the device of the emergency alert system.
5、安全対策の条件
5、1 基本条件
岩手山は山頂付近まで観光道路やロ−プウエイのある観光タイプの火山と異なり、緊急時の下山には時間を要する。有珠山等と異なり、活動に異常が捕らえてられてからどの程度の時間で噴火が起きるか定かでない岩手山では、入山者への緊急連絡システムの確立は最低限の行政責任である。どのような状況をもって異常事態と見なすべきかの判断も難しい。人体に被害が生じたり、その恐れがあると予想される時に出される緊急火山情報の発表後では安全に下山できない場合も起こり得る。そのため、より安全性を考え、臨時火山情報の発表を異常事態との目安とすることとした。そして、当該市町村は防災行政無線により作動する緊急通報装置を製作する。もちろん、沈静化した状況にないことを前提に入山する登山者には、警報の有無を自ら確認し、異常時には速やかに下山するという自己責任を啓発することも重要とされた。すなわち、以下の三要件を柱とする、入山規制の緩和のための対策が進められることとなった。
(1)、盛岡地方気象台が観測や情報収集により、確実に「臨時火山情報」を発表する。
(2)、行政機関が、入山者へ確実に、異常が発生したことを伝達し、下山を呼び掛けるシステムを構築する。
(3)、入山者には緊急通報装置を自ら確認し、異常時には速やかに下山するという、自己責任を啓発する。
しかし、上記三要件のいずれか一つでも適切に運用し得ない場合には、安全の確保は困難になるのであり、指針を具体化する上で多くの課題の解決を迫られることとなった。
5、2 異常事態との判断基準
第一の課題は、どのような異常をもって、「下山が必要とされる」異常事態と判断するかの基準である。火山活動の監視と情報発信は気象庁の任務であることはいうまでもない。しかし、岩手山では監視網が整備されたとはいっても、気象庁がリアルタイムで監視している機器は大学など他の機関のデ−タを分岐しているものも含めて、地震計12点、震度計1点、空振計3点、監視カメラ5点である。観測点の数のみからは、わが国有数の監視体制と称されるものの、東西十数kmにわたる巨大な岩手火山群のなかではまばらな観測網である。また、有珠山では地元観測施設の研究者の判断や助言が大きな力を発揮した。しかし、岩手山では地元岩手大学には火山観測施設がないため、同様の役割を担いがたいとの疑念もあり、緊急時の迅速な判断が容易ではないとの指摘もあった。
そのため、異常事態との判断基準は、入山規制が避難の勧告や警戒区域の設定といった住民生活に重大な影響を及ぼす性質のものでないことをふまえて、臨時火山情報に相当すると、より安全側におくこととした。
また、その発表に関しては、行政への火山活動についての学術的助言を行なうことを目的に地元に設置されている「岩手山の火山活動に関する検討会」も積極的に係わることとした。同検討会は活動評価に最も権威を有する火山噴火予知連絡会とも密接に情報、意見交換を行っている。また、検討会には盛岡地方気象台長も委員として加わっており、定期的な意見交換の場をもつことにより、気象庁本庁および仙台管区気象台とも岩手山の活動の現状についての共通認識が培われている。東北大学地震・噴火予知研究観測センタ−は地震計・傾斜計・歪計などによる定常観測点5箇所のほか、20点以上の臨時観測点を増強し、最も豊富な観測網を整備している。地元の岩手大学では、県の防災ヘリコプタ−による現地調査や監視カメラによる観測などで山体の変化を掌握に努めている。また、地元住民からの情報や、国土地理院、産業総合研究所、防災科学研究所など他機関からも観測情報を提供してもらう体制が整えられつつある。そして、岩手県総合防災室、盛岡地方気象台、東北大学地震・噴火予知研究観測センタ−、岩手大学工学部の4拠点はテレビ会議システムで結ばれており、規模の大きな火山性地震や微動の発生など異常事態が発生した場合には、状況の掌握や協議に運用された実績をもっている。
これらの背景をもとに、登山者に下山を促す異常事態との判断基準は、臨時火山情報の発表に準ずるものとし、その公表には気象台が責任をもってあたることは当然であるが、「岩手山の火山活動に関する検討会」も臨機応変に協議、支援に係わることとした。それ故、下山を指示する規制基準は、
(1)、盛岡地方気象台から臨時火山情報または緊急火山情報が発表された場合。
(2)、異常事態が発生したことにより、岩手山への立ち入りが危険と判断された場合。
とした。また、事態が改善され、再び緩和する基準は、火山観測情報および「岩手山の火山活動に関する検討会」の検討結果からみて、岩手山のへの立ち入りに伴う危険性が切迫したものでなくなった場合とした。
5、3 登山者への緊急連絡システムの整備
第二の課題は、異常発生時に下山を呼び掛ける情報の伝達システムの構築である。岩手山は山頂の標高が2038mと高く、西岩手山の網張スキ−場のリフト(標高約1300mまで)以外は徒歩の他に登山手段はない。入山規制の緩和の対象となる東岩手山には、登山口から上には商用電源がない。薬師岳火口周辺の3箇所の避難小屋のうち八号目避難小屋には登山シ−ズン中はボランティアの山岳協会員やアルバイトの学生などが滞在するが、無線など連絡手段は整備されていない。まして、登山中の一般人に広報する機器も手段もない。そのため、行政責任として登山者に下山の指示を確実に伝達するための緊急連絡装置の開発や伝達システムの整備が必要と考えられた。
INS岩手山火山防災検討会の会合には通信・情報機器メ−カ−も自主的に参加し、システムつくりに知恵を絞った。東岩手山に登山道を有する雫石町・滝沢村・西根町の防災関係者は、携帯電話・PHSなどの通話範囲の確認、赤色灯やサイレンなどの到達距離の確認のための調査を繰り返して実施した。
緊急警報装置の起動に携帯電話などを活用できれば、起動を一斉に行なうことができるし、アンテなども小型化でき装置は簡便になる。実際、岩手山では山頂部や尾根スジは携帯電話が通話可能である。しかし、これらの地点もNTTなど電話会社が示す通話可能区域外になっており、常に通話可能との保障がない。また、登山道の位置によっては、常に通話不能な区域もある。確実に、緊急情報を伝達することが行政の責任であるとの認識から、起動には波長の長い町村の防災行政無線(周波数60MHz、送信出力0.5W)を用いる事とした。防災行政無線は各々の町村でシステムが異なるため、対応する緊急通報装置も複数のタイプが制作されることとなった。異常時には、岩手県の総合防災室と3町村の役場が同時電話会議システムを通じて協議し、Fig.4のように所轄の通報装置を一斉に起動する体制を図った。
Figure 4 Schematic representation for the signal propagation of the device of the emergency alert system.
登山者の安全を考慮して、通報装置は規制が緩和される4登山コ−ス(上坊、焼走り、柳沢、御神坂)の登山口と薬師岳山頂を含む登山道上の7箇所計11箇所に設置することとした。このうち赤色回転灯とサイレンを併設したものが7箇所、赤色回転灯のみのものが4箇所である。その一例として、柳沢登山道七号目に設置された装置の概略をFig.5に、写真をPhoto.2 に示す。サイレン(50W×2基)は、2分間吹鳴、3分間休止を10回繰り返し、赤色回転灯は5時間(専用太陽光パネル付設は10時間)起動する。電源は、システムにより12V・24V、50Ah・65Ah蓄電池と多種にわたる。入山は7月1日の山開きから10月8日の体育の日までであり、その間の電源確保のため、太陽光パネルにより発電を行い、異常時でシステムが起動しない場合には、閉山まで充電などメンテナンス不要な電力量を確保している。システムにより、待受け消費電力が0.09Aと0.25Aのシステムがあり、悪天候が続くことも考慮し、前者には最大出力動作電流3.5Aの太陽光パネルを1基、後者には2基を付設してある。起動時には通報装置から親局に起動したむねの信号が逆送されることにより、起動が確認できる。
Figure 5 Schematic illustration of the device of the emergency alert system.
登山道入り口および山体中腹の緊急通報装置のサイレンは、強風など極端な悪条件下でないかぎり、登山道上のほとんどの場所にいる登山者が聞き取りが出来るよう、音量、サイレンの向きや角度、設置場所を工夫し、かつ現地調査で確認を行なった。また、緊急通報装置を通過後、たとえサイレンを聞き落とした場合でも通常は3時間程度の行程で次の通報装置を確認できるよう、装置を配置した。
異常事態が発生後、どのくらいの時間で噴火に至るかは断定はできないものの、東側やや深部からの本格的噴火に至る兆候が掌握された場合、これらの装置から通報で、避難するに十分な時間的ゆとりを確保できるものと考えている。
岩手山は、標高が高く、冬季の積雪および低温のため、通報装置のメンテナンスは困難になることから、入山は体育の日(2001年は10月8日)までと限定し、その後、登山口は再び閉鎖された。通報装置のうち、サイレン、赤色回転灯、アンテナ、電源部などは取り外し、八合目避難小屋、不動平避難小屋などに格納した。来シ−ズンには再び部品を取り付け、稼働させることとなるが、装置の維持管理などは、今後の火山活動がどのように推移するかにより検討されることになる。
行政による緊急通報装置による情報伝達の他に、臨時火山情報の発表時には、NHK盛岡放送局・IBC岩手放送・FM岩手などのラジオで下山を呼び掛ける協力体制がとられている。また、岩手県の防災ヘリコプタ−および県警ヘリコプタ−が上空から警告を伝える。しかし、ラジオによる伝達に関して、実際に登山者が常にラジオを聞いているわけではない。ヘリコプタ−による警告も好天で山頂まで飛行できる機会はごく少ないという制約がある。それ故、悪条件のもとでも必ず緊急警報を伝達できる手段として、緊急通報装置が重要な役割を担い、登山者もその確認という自己責任を負うことになる。
Photo 2 The device of the emergency alert system around the seventh station at the Yanagi-sawa mountain trail.
5、4 登山者の自己責任の啓発
第三の課題は、自己責任の登山者への啓発である。適切な火山情報の発表および行政による下山の勧告が伝達されても、登山者が情報の届かない場所に立ち入っていたり、緊急通報装置をを注視しなかったり、まして勧告に従わなかったら、安全対策はその役割をなさない。緊急通報装置の位置を確認し、赤色灯点灯時には速やかに下山するというル−ルを遵守することが求められる。また、緊急下山時には山中にとり残された人の安否確認や救出のため、入山者および下山者を正確に把握する必要がある。
そのため、岩手山は活動中の火山であること、ル−ルを守れば安全を確保できる体制が整えられているとの基本的認識を培うべく、観光業者などを通じて、緊急警報装置の設置場所や火山防災マップなども掲載した新たな登山マップや啓蒙を図るビラなどを多数配布した。また、Fig.6に示すような登山者カ−ドやカ−ドを投入する登山箱も新たに整備し、下山時には下山カ−ドを必ず提出するよう促した。通常、登山者数の掌握は登山口の登山者ノ−トへの記載で行なわれている。しかし、そのチェックは遭難者がでた場合などしか行なわれず、記載も登山者の意志にまかされている。ほとんど調査結果がないため詳細は不明であるが、山岳関係者によると、一般に記載者の比率は低く、特に入山口と下山口が異なる場合には、下山の記載が少ないとされている。
岩手山では、下山者の確認を確実に行なうため、これまで行なわれていない下山カ−ドの提出を求めることとした。また、下山カ−ドには、登山口ごとの通し番号を事前に印刷し、異なった登山口に下山した登山者が氏名を記載せずに投函しても、照合が可能になるよう工夫をこらした。
これらの三課題をより確実に実践するための準備も各機関に依頼した。役場職員の任務の分担、異常発生時の召集体制、警報装置のメンテナンス方法、など細部にわたる対策マニュアルも役場ごとに作成された。火山活動の現状をより周知するため、盛岡地方気象台は毎日17時30分に、関係機関に、今日の岩手山と題した火山性地震回数・微動回数・有感地震回数を報せるファックスの送信をはじめた。
Figure 6 The climber card. The card is used to know that a climber enters to a mountain trail of Mt. Iwate.
6、入山規制の緩和まだの手順
2000年11月7日、「岩手山火山災害対策検討委員会」で、上記安全対策が実施された場合には、東側4ル−トの規制緩和を是とする意見がまとまった。県と雫石町・滝沢村・西根町は「岩手山登山者安全協議会」を立ち上げて具体的作業を進めると共に、岩手山周辺6市町村・岩手県総合防災室・同観光課・同自然保護課・県警・盛岡森林管理署・盛岡地区消防本部・盛岡地方振興局・岩手県山岳協会などからなる「岩手山の入山規制に関わる関係者会議」を十数回開催し、安全確保のための連携を図った。一方で、西側の水蒸気爆発の噴石危険区域に入る上防・焼走りコ−スの一部は東側に新たな登山ル−トを開設するという作業も行なわれた。
2001年5月16日からは、緊急通報装置の山中への設置が始められ、登山口への登山箱や案内板、西側への立入禁止の警告板の設置、登山者カ−ドの作成なども進められた。また、観光サイドから、一部登山道の規制緩和のPRと共に、宿泊業者・旅行業者へは登山者への登山者カ−ドおよび下山カ−ドの提出や緊急通報装置の確認など自己責任の啓発を促すよう協力を求めた。同年6月には訓練臨時火山情報を発表し、通報装置を作動させ下山誘導を行なう登山者安全対策訓練が実施され、また、滝沢村・雫石町・西根町では関係者の具体的な対応手順を示した、岩手山登山者安全対策マニュアルも作成された。
入山規制の緩和は、現状以上に火山活動(火山性地震や微動の発生、地殻変動など)が活発化しないことが大前提である。2001年6月25日、「第17回岩手山の火山活動に関する検討会」が火山活動に大きな変化がないことを確認した。そして、「第11回岩手山火山災害対策検討委員会」が、現状で対応可能な安全対策が施されたことを認め、その提言をもとに、法的に規制を行なっている岩手山周辺6市町村長と県が協議し、2001年7月1日午前零時からの入山規制の緩和を決定した。
2000年11月7日および2001年6月25日の一連の会合は前節に掲げた三要件の客観性を高め、その徹底を確認するためのセレモニ−的な一面がある。しかし、関係機関の連帯責任と連携を理念とした、岩手山火山防災ガイドラインの意義を改めて認識し、また報道機関を通じて広く県内外に岩手の対応を広報する意味でも、重要なプロセスである。
2001年7月1日午前零時、東側4登山口が3年ぶりに開かれた。小雨と強風の悪天候にもかかわらず、7月1日だけで900名近く(登山者カ−ド提出者)が山頂をめざし、岩手山の存在の大きさが印象つけられた。
なお、安全対策に係わる情報伝達のフロ−はFig.7 に、1998年の入山規制から東側一部規制緩和までの一連の経緯は、Tab.2 にとりまとめた通りである。
Figure 7 Flow chart for the transmission of information on volcano.
7、監視員への依頼事項
八合目避難小屋には、岩手県山岳協会の会員がボランティアで、監視員として常駐して登山者の安全確保に協力した。従前には、公的な連絡手段はなかったが、避難小屋の緊急連絡装置を所管する滝沢村の防災行政無線の移動子局を配備して、連絡体制を整備した。
監視員はあくまで任意の協力者であり、万一の際の責任を負わせられる立場にあるものではないが、以下のような役割を担ってもらうこととし、その認識を深めるべく、説明会も2001年6月18日に開催された。
(1)、火山活動の現況の把握。定時に役場との連絡を取り、正確な状況を把握する。(盛岡地方気象台には仙台管区からの情報が、7時・11時・17時に入り、役場にも地震回数などが速報されることとなる。)
(2)、入山者への火山活動の現状の説明。
(3)、入山者へ緊急通報装置の位置、起動時には緊急下山することの説明。緊急時の避難誘導。
(4)、西側に立ち入らないように説明、監視。
(5)、山頂火口内の御室火口への立ち入りをしないように説明。(今のところ兆候はないが、火山性ガスなどが噴出すると停留し危険なこともあり得る)
(6)、火山活動の監視、異常時に気象台、役場への連絡。
(7)、緊急通報装置の破損チェック、太陽電池パネルの清掃。
岩手山では、多くの観測機器による観測や監視カメラによる監視を行なっているが、現地でなければ掌握できない異常現象も生じる可能性はあり、これらの感知は安全確保に重要な情報である。監視員には、具体的な異常事項として以下のような事例を掲げ、これらの事象が生じた場合にはただちに役場あるいは気象台に連絡をとること、場合によっては臨機応変な処置を行なうよう依頼した。また、噴気などこれまでの観測資料や写真などを参考のため避難小屋に掲示した。
(1)、有感地震の発生、地鳴りの発生。
(2)、硫化水素、亜硫酸ガスなど強い火山性ガス臭の検知。
(3)、薬師火口や火口壁からの強い噴気の発生(通常、奥宮・妙高岳南斜面・南東火壁などから弱い噴気は出ている)。
(4)、西側での水蒸気爆発の発生(監視カメラなどで監視しており、また空振計も設置してあるが、悪天候時や規模が小さい場合には気象台で把握できないこともありうる)。
(5)、大地獄谷、黒倉山山頂からの異常な噴気(高さ200メ−トル程度までの噴気はしばしば観測されているが、この程度は異常とは見なさない)。
(6)、鬼ヶ城など通常は噴気のない場所からの噴気の噴出。
(7)、御苗代湖やお釜湖などでの変色や気泡の発生。
また、岩手山西側(おそらく発生するとすると大地獄谷)で水蒸気爆発が発生した場合、径10cm以上の噴石が平笠不動小屋付近にまで降り、薬師火口にも数センチの火山灰が降り積もる可能性がある。焼走り・上坊の登山コ−スは、噴石を避けて東側に迂回するル−トを新設しているが、噴火時には影響がないとはいいきれない。
水蒸気爆発は事前に予測できないかもしれないので、爆発に遭遇したときには、以下のように対応することとした。
(1)、速やかに東側に下山するよう指導する。
(2)、山小屋周辺にいる人は屋内に避難させる。爆発は長期間続かないと推測されるので、役場などと連絡・協議の後下山誘導を行なう。
8、規制緩和以降の課題
登山者カ−ドおよび下山カ−ドの提出状況はTab.3 に示す通りである。両カ−ドの回収および照合作業は岩手県警察が担当した。緊急時には、地元警察官がすぐ4登山口に駆け付け、登山者カ−ドと下山カ−ドを照合し、下山していない登山者の確認を行なう。通常の場合、当初は毎日日没後に各登山口の登山箱から回収、8月以降は、週に2回定められた曜日に回収作業を行ない、入山者数や下山カ−ドの提出状況を集計した。避難小屋への宿泊者がいる場合には、当日の登山者カ−ドと下山カ−ドの回収数は当然一致しないが、宿泊しても1泊がほとんどであるため、数日単位で対比すれば、下山カ−ドの提出状況などを評価できることになる。
7月だけで入山者は10、268名と多数の登山者が山頂を目指した。しかし、当初、異常時の安否の確保に必要な登山者カ−ド、下山カ−ドの提出が守られない状況にあった。特に、入山規制緩和の初日の7月1日から3日間の下山カ−ド提出率は3割を割った。急遽、カ−ド提出を呼び掛ける看板の増設や登山箱の前を必ず通過するようロ−プを張ったり、旅館、観光業者を通じて徹底を呼び掛けるなど対応を図った結果、8月15日から31日までの下山カ−ド提出率は93%まで向上した。10月8日の閉山までの登山者(カ−ド提出者数)は26、986名で下山カ−ドの提出率は86.5%である。啓発の効果もあって後半向上したとはいえ、下山カ−ドの提出率は100%には届かない。また、県警が終日、監視ビデオで登山箱周辺を撮影してカ−ドの提出状況を調査したところ、はじめから入山者カ−ドを提出しない登山者が2割程度いることが明らかになった。登山者の自己責任のさらなる啓発が大きな課題である一方、罰則のない規制において百%の遵守は困難との認識で対応を考える必要がある。
緊急通報システムの構築に行政が責任をもってあたるなど、行政責任を明確に認識して対応を図る上で、岩手県の果たした役割は大きい。単なる連絡調整ではなく、対応に温度差もある関係市町村をとりまとめ、情報発信の統括から資金的な補助も含めてリ−ダ−シップを発揮した。登山道の付け替え、仮設トイレの設置など県庁各部局は勿論、森林管理署など国の機関の許認可も、十分とはいえないものの、比較的速やかに行なわれたことも評価されよう。しかし、一方で、もっとも登山者の目につかなければ意味をなさない、警報装置の説明板や立入禁止区域を示す看板などが、環境に調和させるとの理由で、目立たない茶色に塗り替えを強いられるなど、規制の杓子定規的適用に疑念も残された。
現地で登山者の安全確保の実務に携わる山岳協会員の役割の線引、夜間の緊急下山など突発事態の安全確保が現実に十分対応できるのか、法的根拠のない規制をどこまで強制出来るのかなど、今後も実践のなかで模索していくことになる課題も多く提示されている。
2001年12月27日に従前同様一連の検討会、委員会、県と6市町村の協議をへて、活動に大きな変化がない場合には、2002年は7月1日午前6時から体育の日の午前9時まで同じ4登山口の入山規制の緩和を行なう方針が確認された。昨年には不十分との反省がなされた、生きている火山岩手山への認識と自己責任の啓蒙を徹底させる活動を行なうための時間的余裕を図ったもので、各機関を通じて周知への努力がなされることとなっている。
Table 2 History before temporary deregulation for stopping to climb Mt. Iwate.
Table 3 Number of climbers and Ratio of submission of climb-down card during
a period of temporary deregulation in 1999 (after Iwate Prefecture Police).
9、結 言
岩手山では、火山活動が通常の状態に戻ったとの安全宣言がだされる前に、火山活動の監視や登山者の安全確保体制の整備を基に、山頂までの入山規制の緩和をはかるという、「火山との共生」の試みが模索された。そして、「盛岡地方気象台からの火山情報の適切な発表」、「登山者への緊急連絡システムの整備」、「自己責任の登山者への啓発」を三本柱とする安全対策が構築され、岩手山東側登山道での入山規制の一時緩和が実施された。
噴火間隔が長く、防災対応が十分とはいえない我が国の多くの火山にとって、岩手山での取り組みは先駆的な指針ともなりうると考えられる。
岩手山では三年余という短期間で、監視網の整備、被害想定、防災マップの作成、火山防災ガイドラインの策定、避難訓練や啓蒙活動などを精力的に行なってきた。特に、国・県・市町村の連帯責任と、研究者・行政・報道機関・住民が連携する防災体制の構築は、「岩手方式」と注目されている(斎藤、2001b)。その実践に基づく、安全宣言以前の規制緩和は、火山との共生を目指した成果のひとつと評価される。
しかし、入山規制の緩和が東岩手山登山道のみの一時緩和であるにも係わらず、火山活動は終息したとのイメ−ジが広がり、危機管理意識が低下しつつある。噴気活動が継続している西側の規制緩和の要望もいずれは課題となり、終息の見極めが困難な火山活動の中で、模索は続けられる。何よりも、今後再びマグマの活動が活発化し、噴火に至らないという保障はないのである。
専門職員が育成されず、継続性に欠ける行政の体制のもとに、危機管理体制と防災意識の継続をどのように図ったら良いのかなど、規制緩和二年目以降も岩手山との共生の課題は多い。
謝 辞
本論文で検討された登山者安全対策の実務は、岩手県総務部消防防災課山本博火山対策監、雫石町小原千里消防防災係長、滝沢村防災室伊藤健一室長、同藤原治主任主査、西根町畠山弘明消防交通係長らを中心とする関係機関の担当職員の多大な労のもとに進められた。
「INS岩手山火山防災検討会」に自主的に参加れた多くの方々には、対策の検討に際して率直な意見をいただいた。
本誌の査読委員の方々には、本論文の論旨を明確にし、内容をわかりやすくするうえで、貴重なご教示を賜ったった。
記して、深く感謝の意を表する次第である。
参 考 文 献
土井宣夫:岩手山の地質−火山灰が語る噴火史、滝沢村教育委員会、2000
土井宣夫・土井小枝子・斎藤徳美・野田賢・越谷信・引頭和香・三浦正人・沼宮内忠:岩手火山、1999年〜2001年の表面現象の推移、日本火山学会2001年度秋季講演会予稿集、B30、2001
土井宣夫:岩手火山の1999年〜2001年の噴気活動、岩手山火山活動に関する地域防災総合研究に関わる岩手山火山活動推移の観測報告書、2002
火山噴火予知連絡会:第82回連絡会「岩手山の火山活動に関する統一見解、1999、10、18
盛岡地方気象台:岩手山の活動経過2001年11月、2001
盛岡地方気象台:岩手山の活動経過2002年1月、2002
岡田弘・宇井忠英:噴火災害と防災・減災、火山と噴火災害、東京大学出版会、p.113、1997
斎藤徳美:岩手山火山防災マップ、月刊地球、23、5、pp.317-322、1999
斎藤徳美:岩手山の監視と防災体制、月刊地球、23、11、754-759、2001a
斎藤徳美・越谷信・山本英和・野田賢・佐野剛・土井宣夫:報道機関と連携した岩手山火山防災対策の取組み、日本災害情報学会第3回研究発表大会予稿集、pp.28-49、2001
斎藤徳美:岩手山の火山活動と防災への取り組み−1998年〜2001年、第34回INS岩手山火山防災検討会資料、PP.1-80、2001
佐藤峰司・浜口博之:地殻変動観測から推定された1998〜1999年の岩手山のマグマ貫入プロセス、日本火山学会2001年秋季大会講演予稿集、B35、2001
田中聡、宮町宏樹、筒井智樹、松尾のり道、及川純、大森隆雄、宮岡一樹、森健彦、鬼澤真也、山脇輝夫、相澤幸司、浜口博之、岩手山構造探査グル−プ:2000年岩手山人工地震探査−3次元P波速度構造−、地球惑星科学関連学会2001年合同大会予稿集、Jp−022
田中聡・浜口博之:岩手山構造探査から得られた3次元地震波速度構造による震源再決定、日本火山学会2001年秋季大会講演予稿集、B33、2001
東北大学大学院理学研究科:第91回火山噴火予知連絡会資料、2002
付録 岩手山防災のための主な組織
1、岩手山火山活動対策検討会
設置日:1998年5月22日
役割:臨時火山情報第1号の発表をうけて、緊急につくられた公的委員会。2および3の組織に改組し解消。
事務局:岩手県総務部消防防災課(現、総合防災室)
委員:斎藤徳美(岩手大工学部教授)、座長
浜口博之(東北大地震・噴火予知研究観測センタ−教授)
土井宣夫(地熱エンジニアリング(株)主席技師長)
盛岡地方気象台防災業務課長
岩手県土木部砂防課長
2、岩手山火山災害対策検討委員会
設置日:1998年7月8日
役割:「岩手山火山防災マップ」、「岩手山火山防災ガイドライン」の策定、防災対策全般についての提言および推進。
事務局:建設省東北地方建設局岩手工事事務所(現、国土交通省東北地方整備局岩手工事事務所)・岩手県土木部砂防課(現、県土整備部砂防課、岩手県総務部消防防災課(現、総合防災室)
委員:斎藤徳美(岩手大工学部教授)、委員長
浜口博之(東北大地震・噴火予知研究観測センタ−教授)
青木謙一郎(東北大名誉教授)
土井宣夫(地熱エンジニアリング(株)主席技師長)
太田岳史(岩手大農学部助教授)
盛岡地方気象台台長
盛岡市長
雫石町長
滝沢村長
玉山村長
西根町長
松尾村長
第5回委員会から
細江達郎(岩手県大社会福祉学部教授)
首藤伸夫(岩手県大総合政策学部教授)
建設省(現、国土交通省)岩手工事事務所所長)
岩手県総務部長
岩手県土木部(現、県土整備部)部長
岩手県盛岡地方振興局長
3、岩手山の火山活動に関する検討会
設置日:1998年10月8日
役割:観測情報の収集、火山活動の検討、地元自治体や住民への学術的助言や説明。
事務局:岩手県総務部消防防災課(現、総合防災室)
委員:斎藤徳美(岩手大工学部教授)、座長
浜口博之(東北大地震・噴火予知研究観測センタ−教授)
青木謙一郎(東北大名誉教授)
平林順一(東京工業大学教授)
土井宣夫(地熱エンジニアリング(株)主席技師長)
盛岡地方気象台台長
4、岩手ネットワ−クシステム(INS)岩手山火山防災検討会
設置日:1998年5月16日
役割:研究者、自治体の防災担当者、報道機関、防災関連企業、住民が忌憚のない意見交換を行い、人と人のネットワ−クを築く。個人の自由参加による任意組織。INSには31の研究会があり、千人以上の会員が活動しているが、その中の「地盤と防災研究会」の分科会として設立。
事務局:岩手大学工学部地下計測学研究室
代表幹事、斎藤徳美(岩手大教授)
参加機関:東北大学地震・噴火予知研究観測センタ−、岩手大学、岩手県立大学、盛岡地方気象台、国土交通省岩手工事事務所、国土地理院東北測量部、盛岡森林管理署、陸上自衛隊岩手駐屯地、岩手県警察本部、岩手県(総務部・県土整備部・商工労働観光部)、盛岡市、雫石町、滝沢村、玉山村、西根町、松尾村、岩手県観光協会、日本道路公団、JR東日本旅客鉄道(株)盛岡支社、(株)NTT盛岡支社、東北電力(株)岩手支店、地熱エンジニアリング(株)、岩手県農業共済組合連合会、全労済、岩手県山岳協会、NHK盛岡放送局、岩手放送、テレビ岩手、岩手めんこいテレビ、岩手朝日テレビ、岩手日報社、各全国紙盛岡支局、防災関連機器メ−カ−、など、40機関余。