岩手山火山防災マップの作成後、岩手山火山災害対策検討委員会はその役目を終えたかの雰囲気が一部に流れた。噴火後にはマップは迅速に更新されなければならないし、何よりも同委員会はマップに基づいた防災対策を総合的に推進するとの、各機関の連携を基本に立ち上げられたはずのものである。委員長の強力な指導のもとに、減災を目指して何をなすべきかの策定に取り組むこと、そのためには単に事務局担当としての立場にあった、建設省岩手工事事務所長、岩手県総務部長、岩手県土木部長などが委員との立場で企画立案の側にたつこととし、さらに社会心理の分野に係わる岩手県立大学の複数の専門家を委員に加えて、委員会の強化を図った。
わが国では総合的な火山防災のための指針は作成されていない。そのため、噴火時の緊急対策から復興期にまでに何をなすべきかの指針となる火山防災ガイドラインをとりまとめるには、多方面にわたる検討が必要とされた。噴火の可能性が指摘されている中で、取り急ぎ必要なことは、噴火から48時間以内に行なうべき避難など緊急対策のを明らかにし、具体的な対策を進めることである。そのため、委員会ではワ−キングを中心に緊急対策の検討を急ぎ、1999年5月27日、噴火から48時間の間に必要な対策をまとめた緊急対策ガイドラインを策定した。委員会では、引き続き緊急対策で示した活動活発期、避難期から避難生活期、生活復興期までの中長期対策についての検討を進め、2000年3月23日、総合的な「岩手山火山防災ガイドライン」を取りまとめた。検討会には、増田岩手県知事と周辺6市町村長が顔を合わせ、堅い握手で連携して防災対応との意欲が顕示された。
ガイドラインは、防災の実務的な対策は、行政機関すなわち国・県・市町村が”連帯”して責任を負うこと、および、行政機関・防災関係機関・学識者・住民が”連携”してそれぞれの役割を遂行することにより地域の安全が守られることを、対策推進の理念として掲げている。系統的かつ総合的な火山防災の指針はわが国では初めてのものである。特に縦割りと責任の所在の不明確さが問題と指摘されるケ−スの多かった中で、行政の連帯責任と関連機関から住民までの連携が理念として明記されたことは、画期的なことである。 さらに、噴火時の避難の勧告などについて、知事が市町村長に助言をすることが明記されている。災害対策基本法上は、避難の勧告・指示は首長の権限と定められている。気象台から噴火以前に緊急火山情報が発表された場合には、首長はそれを根拠に勧告を行なうことが出来る。しかし、岩手山には予測に重要な過去の噴火の経験則がなく、緊急火山情報は噴火の確認後となる可能性も大きい。火砕流、火砕サ−ジ、融雪型火山泥流などは、発生後の避難では間に合わないし、山頂付近が目視できる日も数少ない。火山の専門家でない首長が単独で避難の勧告等を決断することは、事実上困難であることは自明である。そこで、後述の「岩手山の火山活動に関する検討会」の検討結果を踏まえて、県知事が6市町村の首長に助言することとしたものである。このようなシナリオに基づいた県および6市町村主催の「岩手山噴火対策防災訓練」も実施されている。また、災害時には行政だけでは対応が困難であるため、県は、輸送、医療、生活必需品などに係わる各種業界などと順次災害応援協定を締結し、協力体制を築いている。
ガイドラインの理念がそのとおりに実施されつつあることは、INSなどの連携の場で防災関係者が個々の責任の自覚と”ひと”と”ひと”との信頼感を培い、機関ごとのネットワ−クを広げてきた成果とも評価されよう。
関連画像 |
★岩手山の火山活動と防災対応の仮想シナリオ(案) |
★火山活動に関する情報連絡体制図 |