噴火による土石流、火山泥流などによる災害を防止するには、砂防ダムなどハ−ド面での対策が不可欠である。岩手山では、約40の沢が山体を刻み、降灰後の土石流が広範囲で発生、また、冬期の噴火による融雪で融雪型火山泥流の発生が予測される。「岩手山火山防災マップ」の作成により被害予測図が提示されことに基づいて、砂防、治山の計画が検討された。
岩手工事事務所は「岩手山火山砂防計画検討委員会(委員長:石橋秀弘岩大名誉教授)」を1998年11月29日に設置、青森営林局森林管理部治山課と岩手県林業水産部森林土木課が「岩手山火山治山計画検討委員会(委員長:村井宏東北地域環境計画研究会会長」を1999年1月7日に設置し検討を進めた。沢ごとに流域面積や勾配に応じて流量、土砂量を試算した結果、人家への被害は土石流が17渓流で発生し約460戸、泥流は松川などの河川でも氾濫し約5、300戸が被害を受けるとされる。
砂防と治山とが一つの火山に対して別個に検討を進めることに対して、報道機関から”役所縦割りで岩手山防災迷走”と批判を受ける場面もあったが、連携の理念にたった調整が図られた。岩手山では、八幡平山系直轄火山砂防事業により、砂防対策が進められていたが、噴火による土石流災害の防止を目的に、砂防ダム27基、遊砂地9基を計画した。計画のうち、国土交通省は砂防ダム24基、遊砂地6基を、岩手県が砂防ダム4基と遊砂地3基を受け持つ。将来は、100分の1の超過確率の降雨日雨量235mmに対応させるが、噴火の可能性が指摘されているなかで、早期に整備する一次対策として、10分の1の超過確率の降雨量166mmを想定して事業が進められている。この他、監視カメラ15台、雨量計2箇所、積雪計2基、震動センサ−やワイヤセンサ−を19箇所に設置することが計画され、これらを含めた岩手山土砂移動監視システムは1999年4月から既に大部分が可動を始め、関係機関へも情報を発信している(国土交通省岩手工事事務所、2000)。
治山ダムについては、砂防ダムと同様に10分の1超過確率降雨量を想定し、緊急対策として、1999年から5年間で38基、恒久対策として27基の建設が計画された。工事が始められた8箇所の現場には、安全確保のためワイヤセンサ−、震動センサ−、雨量計などが設置され、2000年3月から岩手山火山防災総合監視司令センタ−が運用を始めている。
また、盛岡森林管理署は岩手山の標高1000m前後に、土石流災害の軽減をめざした岩手山防災樹林帯を2002年度から整備を始めた。土石の流出をおさえる効果があるとされる直径20cm以上の樹木が高密度で育成する延長25kmの森を、約10年かけて整備する計画である。岩手山の沢に多数のダムを建設することについては、生態系保全との観点から自然保護のバランスに配慮を求める声もあり、速効的な効果は薄いものの、緑の壁ともいえる防災樹林帯整備の試みは注目されよう。