3.火山活動および防災対策の経緯
(14)西側での噴気活動の活発化と県の観測体制の整備
1999年春以降、火山性地震の数は月に200回程度に減少した。しかし、1999年5月29日に黒倉山で高さ100m以上の噴気が観測されて以降、大地獄谷〜黒倉山〜姥倉山周辺の東西約1.5km、幅数100mの範囲で、笹枯れの進行や新噴気群が出現し、地温の高い範囲が拡大を始めた。
2000年1月頃までに、黒倉山山頂の噴気や大地獄谷の噴気は右肩上がりに活発になる傾向を示し、また、黒倉山〜姥倉山北斜面には推定断層に沿って東西方向に噴気孔群が連なり、100箇所以上からしばしば連なって高く噴気が立ち上っている。1999年雪解けに笹枯れがあらわれた大地獄谷西小沢でも、同年秋以降噴気が出始め、5箇所程度の噴気地帯から活発に噴気が立ち上っている。
2000年夏以降も、黒倉山西斜面裸地、同円形裸地では地温の高い区域が拡大傾向にあり、北斜面の標高の低い樹林地帯や、姥倉山方向にかけても新たな噴気が確認されており、西側での表面活動は右肩上がりの様相を呈した。
1999年10月18日の火山噴火予知連絡会では、”水蒸気爆発などにつながる可能性もある”との見解を示しており、その見解は2002年5月23日の第92回の予知連絡会でも変更されていない。
1998年に顕著にみられた西側での山体の南北方向への伸張は同年9月以降緩やかになり、2000年夏以降はほとんど見られなくなった(東北大学地震・噴火予知研究観測センタ−、2001)。一方で、表面活動は西側の一部に集中していることから、当該地域に観測点を新設することの必要性が検討された。大学などの観測機器もほとんどが設置ずみのため、検討会は西側の変化を把握するために岩手県に地震計と地温計の設置を要請した。県では要請に応えて、黒倉山西斜面裸地、黒倉山〜姥倉山稜線部の2箇所に地震計、黒倉山山頂から姥倉山分岐部にかけての5箇所に地温計を1999年10月に設置した。観測デ−タはテレメ−タで仙台管区気象台などに送られ、解析が行なわれており、黒倉山〜姥倉山直下浅部での地震を掌握し、監視が続けられている。地方自治体が独自に火山観測機器を設置することはまれであり、県としての防災に対する熱意のあらわれと評価されよう。
西岩手山の新噴気群の出現や笹枯れなど表面現象の活発な区域は、大地獄谷、同西小沢、黒倉山から姥倉山一帯の東西約1.8km、南北約0.7kmと広範囲に及んでおり、主として東西性の断層F1〜F10に沿って、200箇所以上の噴気孔が確認されており、この他、大地獄谷西小沢や黒倉山裸地西北小沢などには岩の間などからしみ出る噴気群も多数存在する。黒倉山山頂の噴気は、2001年11月19日に約250m、2002年1月31日には約300mまで立ち上るなど活発であったが、2002年春以降、大地獄谷の噴気ともどもランクは頭打ちからやや低下の兆しがある。稜線部および南北斜面の噴気群も噴気温度は95~96度と高いものの、噴気量はやや低下しつつあるように見受けられる(土井・他、2001;土井、2002;盛岡地方気象台、2001、2002)。